EP「螺旋の街」オフィシャルライナーノーツを公開!

がらり オフィシャルサイト

2026/06/10 18:00

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【 がらり、メジャーデビュー作『螺旋の街』で描く“都市”と“感情”の螺旋】

テキスト:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

 

シンガーソングライター、がらりのMajor 1st EP『螺旋の街』は、都市という巨大な装置の中で、楽曲それぞれの主人公が何を感じ、何を失い、何を受け入れていくのかを描いた、5曲入りの短編集となった。

 

舞台は都会。そこには、孤独がある。寂寥がある。逃げ出したい衝動がある。思うようにいかない現実への諦念がある。そして、そのすべてを通過した先に、ささやかな受容がある。タイトルに掲げられた“螺旋”とは、単なるループではない。抜け出そうとしても同じ場所へ戻ってきてしまう袋小路でありながら、それでも少しずつ視点を変え、深度を変え、人をどこか別の場所へ連れていく運動でもある。

 

がらりは、このEPでメジャーデビューを果たす。だが『螺旋の街』は、いわゆる“名刺代わり”の作品というよりも、すでに確立された作家性を、より多くのリスナーへ向けて開いていく作品だ。がらりは全楽曲の作詞・作曲を手がけるシンガーソングライター/クリエイターであり、曲ごとに“がらり”と作風を変えながら、文学的な歌詞を生々しい歌声に乗せてきた。その魅力は、メロディメイカーとしての才気だけでは語りきれない。日常の風景、街の雑踏、人間関係の歪み、自意識、嫉妬、承認欲求、誰にも言えない寂しさ。そうした曖昧な感情を多角的に分析し、詞曲とサウンドへと変換し、ポップミュージックとして成立させてしまう洞察力こそが、がらりの凄みである。

 

本作は、コンセプトが最初から厳密に決まっていた作品ではないという。もともとデモとして存在していた「シャイなボーイ」、「レンズ」、「単純ないきもの」に、偶然にも都市的なムードがあった。そこへ「春を盗んで」と「箱庭ダンス」が加わることで、都会の暮らしの中で変化していく感情を5曲でリレーする構造が見えてきた。つまり『螺旋の街』は、後からコンセプトを被せた作品でありながら、結果として、極めて強い必然性を持つ一枚になっている。

 

M1.シャイなボーイ

1曲目「シャイなボーイ」は、EPの入口としてこれ以上ないほど鮮やかだ。グルーヴ感に溢れたバンドサウンドの上で描かれるのは、都市の雑踏に立つ、ひねくれていて、臆病で、けれどどこか愛おしい若者の姿である。“孤独を愛するロンリーボーイ”というポーズ。その裏側にある、寂しさと素直になれなさ。自分を完全には受け入れられず、周囲との繋がり方にも違和感を抱えている。そんな心のズレが、軽やかなポップネスの中に滲んでいる。

 

この曲の面白さは、アレンジの有機性にもある。小さなモチーフを繰り返す折り目正しいメロディがありながら、アンサンブルはセッション的な呼吸によって、しなやかに揺れていく。予定された構造と、その場で生まれる新鮮な音。その二つが絡み合うことで、「シャイなボーイ」は単なるキャッチーなポップソングにとどまらず、都市に立つ一人の人間の複雑な体温を宿している。

 

 

 

M2.春を盗んで

2曲目「春を盗んで」は、一転して華やかな祝祭感をまとったポップソングだ。J-POPとしての開かれたメロディ、そして“春を盗む”という秘密めいた言葉。だが、この曲の明るさは、ただ明るいだけではない。想い人を連れて遠くへ行きたいという夢見心地な衝動。その願いは、きっと叶わないかもしれない。それでも“遥か未来よりも現在こそが全て”と歌う瞬間、曲は強がりと切実さを同時に抱きしめる。

 

がらりの声には、どれほど華やかなアレンジの中にあっても、どこか必死さや切実さが残る。その声質があるからこそ、「春を盗んで」は単なる春ソングではなく、祝祭の奥に影を湛えた逃避行の歌として響く。ポップであることと、叶わなさを知っていること。その両方が同じ画角に収まっているところに、がらりのソングライティングの妙がある。

 

M3.レンズ

3曲目「レンズ」は、本作の中心に置かれたリード曲であり、『螺旋の街』という作品全体の核を担う楽曲である。ループするエレクトリックピアノのリフ。その反復は、山手線の車窓のようでもあり、SNSのタイムラインのようでもあり、頭の中で止まらない比較と自意識の渦のようでもある。

 

ここで描かれるのは、都会の中で夢を追いながら、自分を見失っていく人物の姿だ。誰かの成功を素直に喜べない。誰かの現在と自分の停滞を比べてしまう。見られていることに気づき、その視線まで自分の一部に取り込んでしまう。実像と虚像、涙と嘘泣き、憧れと嫉妬、承認欲求と自己嫌悪。あらゆる感情がレンズ越しに肥大し、歪み、やがて本当の自分の輪郭が曖昧になっていく。

 

「レンズ」というタイトルも秀逸だ。世界を切り取るもの。他者の視線を意識するきっかけとなるもの。そして、実像と虚像を発生させるもの。理科や物理の言葉でありながら、現代の感情を映すための詩語として機能している。さらに、声の加工や中性的なニュアンスを含むトラックの処理も含め、この曲はEPの中で最も現代的な響きを持つ。だが同時に、夢を追う人間の焦燥、都市に飲まれていく感覚は、時代を越えて普遍的でもある。現代性とエバーグリーンな感情。その両方が、ここにはある。

 

M4.箱庭ダンス

4曲目「箱庭ダンス」は、閉じた世界で踊るためのポップソングだ。ここで言う“箱庭”は、都市であり、同時にスマートフォンの中の世界でもある。現代人は街に暮らしているようで、実際にはSNSや小さな画面の中で世界を完結させている。冷たくて美しい箱の中で、僕らは踊る。踊らされているのか、自分の意思で踊っているのかもわからない。それでも、踊るしかない。

 

“踊る”という言葉は、ポップミュージックにおいてあまりにも記号的に消費されてきた言葉でもある。だが、がらりはそこに複数の意味を戻していく。身体が踊る。心が踊る。手のひらの上で踊らされる。諦めではなく、開き直りでもなく、その中間にある生命力としてのダンス。「箱庭ダンス」は、ダンサブルでありながら、どこか長いため息のようでもある。だからこそ、この曲は軽快に鳴りながら、聴き終えた後に不思議な余韻を残す。

 

M5.単純ないきもの

そして5曲目「単純ないきもの」。本作は、この曲によって静かに、しかし深く着地する。無駄を削ぎ落としたシンプルなピアノトリオの響き。そこで歌われるのは、複雑な進化を遂げた人間の中に残る、ごく単純な哲学である。

 

誰かが笑えば嬉しくなる。ただそれだけのこと。けれど、その“ただそれだけ”が、人間が街を作り、誰かと暮らし、喜びを共有してきた根源なのではないか。『螺旋の街』で描かれてきた孤独、逃避、嫉妬、自意識、開き直り。その果てに、がらりはこのシンプルな仕組みに辿り着く。都市とは、複雑な場所である。人はそこで自分を見失い、比較し、疲弊し、時に踊らされる。それでも、目の前の誰かが笑えば嬉しいと思える。その単純さこそが、人間の正体なのだと、この曲は静かに告げる。

 

『螺旋の街』は、多彩なサウンドを経由しながら、強烈にキャッチーなメロディが全編を貫く作品である。ミニマルなバンドサウンド、華やかなポップ、骨太さと繊細さが同居するリード曲、2000年代的な懐かしさを漂わせるダンサブルな質感、そしてシンプルなピアノトリオ。5曲はそれぞれ異なるフレーバーを持ちながら、すべてが都市の心象風景へと繋がっている。

 

さらに興味深いのは、本作の構造そのものにも“レンズ”的な対称性が仕込まれていることだ。5曲のタイトル文字数は、7・5・3・5・7というシンメトリーを描く。中心にあるのは、3文字の「レンズ」。1曲目はフェードインで始まり、5曲目はフェードアウトで終わる。楽曲単位の完成度だけでなく、EP全体を一つの作品として設計する視点が、ここにはある。

 

メジャーデビュー作でありながら、『螺旋の街』は自分を薄めることで開かれた作品ではない。むしろ、がらりの中にある作詞作曲の哲学、言葉の硬度、ひねくれた視線、ポップへの信頼が、原液の濃さを保ったまま提示されている。がらり自身は、ポピュラリティと個性を単純な二項対立では捉えていない。自分にしか作れないものを極めていくことで、結果的に多くの人へ届く道がある。その確信が、このEPには刻まれている。

 

都市は、人を迷わせる。誰かと比べさせ、孤独にし、時に自分の涙さえ疑わせる。それでも人は歩く。逃げ出したくなりながら、踊らされながら、また同じ場所へ戻ってきながら、少しずつ違う自分になっていく。『螺旋の街』とは、そんな都市生活者の心の運動を、ポップミュージックとして鮮やかに結晶化した作品だ。

 

がらりは、この街の中で鳴っている小さな違和感を聞き逃さない。そして、その違和感を歌へと変える。だから彼の音楽は、生活の中に溶け込んだ瞬間、ふと“自分のことを歌ってくれている”ように響くのだろう。『螺旋の街』は、がらりという才能がメジャーという新たなフィールドへ踏み出すにあたり、その作家性の濃度と開かれたポップネスを同時に証明する一枚である。

 

【EPリリース情報】

Digital EP「螺旋の街」

配信日:2026年6月3日(水)

配信リンク:https://galali.lnk.to/SpiralCity

 

1.シャイなボーイ(TOKAI RADIO ONE ARTIST 2026!)

2.春を盗んで

3.レンズ

4.箱庭ダンス

5.単純ないきもの(MBS/TBSドラマイズム「100日後に別れる僕と彼」オープニング主題歌)

 

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